MISFIT LIFE

INTERVIEW

恋人との別れとホームレス生活、そして人気ホストに......
青春を無駄使いした青年はいかにして本屋になったのか

神楽坂にある小さな本屋さん、「かもめブックス」のオーナーで、文章の校正・校閲を行う鴎来堂(おうらいどう)代表の、柳下恭平(やなしたきょうへい)さんは、現在放送中のドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」の監修も担当されています。そんな柳下さん、知的な印象とは裏腹に、なんと、ホームレスやホストだったという意外な過去が!

ホームレスから人気ホストへ

紫原まずは、どういった経緯でホームレスになられたのかお聞かせいただけますか?

柳下ええ。18歳の頃、付き合っていた女の子と別れることになったんです。当時は中野新橋に住んでいて、同棲していました。別れたからと言って女の子を追い出すのも可哀想なんで、じゃあ僕が出ていくよ、ってことで、家を出たんです、ギター1本抱えて。

紫原ギター1本......。

柳下ええ。ネックのところに最低限の肌着とか巻きつけて。(笑)

紫原ドラマチックですね(笑)。

柳下ええ(笑)。行くあてもなかったんで、新宿の中央公園まで歩いて、そこであんぱんと牛乳を食べていると、向こうから明らかに年季のはいったホームレスのおじいちゃんが歩いてくるんです。うわー絡まれるのいやだなーとか思っていると、そのおじいちゃんが「おい、兄ちゃん。ギター貸してみな」って。それで仕方なくギターを渡して。

紫原どうなったんですか?

柳下そしたら、そのホームレスのおじいちゃんが見事なブルースマンだったんですね。

紫原えー!

柳下僕のギターがこんなに輝くことがあるのかと感動しまして、思わずその場で弟子入りしましたね。なんとその人、リアルにボトルネック奏法をやる人だったんですよ。すげー人と出会ったぞ!と興奮していたら、2、3日のうちに僕のモーリスのギターは大黒屋に叩き売られて、「お前のギター3000円だったぞ」って言われて(笑)。

紫原そんな!(笑)

柳下後でわかったことなんですが、その人は"新宿の王様"と言われていたホームレスで、もう亡くなっちゃったんですけど、有名な人だったんです。その人に、「上野で炊き出しがあるから行くぞ」とか色々と教えられて、2ヶ月ほどホームレスでした。結構楽しかったですね。で、この後、ホストクラブで働くことになったんです。

紫原そこはどういった経緯で?

柳下新宿三丁目の今、無印良品がある近くに、昔ケンタッキーがあったんですね。ホームレス時代、ふらりとその前を通ったとき、心の底から「ケンタッキー食いてえ」と思ったんですよね......。そこで1時間ほどボーッとケンタッキーを眺めていたら、いかにも裕福そうな男の人が「おい、お前何やってんだ」と声をかけてきて。「ケンタ食いたいです」って正直に言うと、なんと1000円くれたんです。

紫原そんなことがあるんですか!?

柳下あるんですね。それで、大喜びで1000円で4本ケンタを買いました。すぐに食べ終わったんですが、やっぱりまた食べたくなって......。1時間待って1000円くれる人が現れるなら、もう1時間待ったらもう1000円もらえるんじゃないかと思いまして。待ってみようと思ったんですよね。そこでじーっと待ってたら、またさっきの人が戻ってきたんです。「またお前か!お前はアホか!」と言われまして(笑)。

紫原(笑)

柳下ケンタ食いたいのは分かった、食わせてやるから、まずは一回事情を話してみろということになって。いろいろ打ち明けたところ、お前はもうちょっとまともな暮らしをした方がいいから俺の店で働け、と。その人が経営していた店で雇われることになりました。それが、歌舞伎町のホストクラブだったんです。

紫原すごいセレンディピティというか......漫画のような展開ですね。

"青春の無駄遣いだ!"と気付いた新宿の朝

柳下当時僕は18歳で、お酒も飲めなかったので、最初はボーイとして、お酒や料理を運ぶ係をやらされました。ところが、僕は人の話を聞くのがすごく好きなので、お客さんとして来ていた新宿のホステスさんの話を、何となしによく聞くようになって。すると、あるときオーナーから、「お前、散髪行ってこい、背広着ろ」と言われ、ホストをやることになったんです。自分で言うのも何ですが、結構人気が出ました。

紫原わかります。柳下さんのお話面白いですからね。でも、人気が出てしまうと逆に辞め辛くなかったりしませんでしたか?

柳下いやー、あるとき急に、これじゃダメだと思ったんですよね。

紫原何かあったんですか?

柳下ええ。ある日、仕事がいつもより少しだけ早めに上がれたときがあって。店で缶ビールをもらってたんで、持って帰るのも何だし、飲んで帰るかってことで、コマ劇場の近くの小さな公園に立ち寄ったんですね。そこでプルタブを開けたら、早朝の公園にプシュッと、ビールの缶を開けるいい音が、それはもう爽快に響き渡って。カラスがゴミ袋からバサバサバサーッと飛んでいったりなんかして......その瞬間、あー俺、決定的に青春無駄遣いしてるなーと思ったんですよね。

紫原何となく場末感が想像できます(笑)

柳下また、ビールがめちゃくちゃうまいんですよ。でも、これをうまいって思ってちゃダメだって。それで、その足で新しい仕事を探しに行きました。何とか決まったのが、新宿のとある心療内科でした。住み込みだったのも、丁度よくて。

紫原心療内科で住み込みですか?

柳下ええ。というのも、そのクリニックは24時間営業だったんです。表向きは24時間じゃないんですが、実際にはホステスさんなど、新宿で働く人たちの駆け込み寺のような役割を果たしていたので、夜中でも止むを得ず診察していたんです。そこでは、カウンセラーさんの話を聞くお仕事をしてました。

紫原そんなお仕事があるんですね。

柳下精神に不調を来した患者さんと長くお話しをしていると、カウンセラーさんの方もだんだん疲れてくるんです。それでね、その人たちの話を聞く人が必要だった。僕自身、ここではとても大きな学びを得たと思います。というのも、僕は本来、人との距離がうまく取れない方なんです。

紫原そうは見えませんけど。

柳下パーソナルスペースがないというか。無意識でいると、心身ともに相手がギョッとするくらい近くまで、どんどん踏み込んで行っちゃう。物理的にいうと、初対面でも相手の顔のそばに自分の顔よせちゃうみたいな(笑)

紫原それはギョッとしますね(笑)。でも、ある面では、そんな柳下さんの個性が、ホームレスの先輩や、ホストクラブのオーナーさんとの縁を作ったとも言えそうですね。

柳下そうかもしれません。ああいった特殊な環境で生きるには良い性格だったと思いますが、かたや一般企業でサラリーマンをやったり、社会の中で当たり前に生きていくのには向かない個性だったと思います。だから、このクリニックでいろんな人と接して、人との距離をうまくとれるようになったことはとても良かったと思います。

どんな人の人生も一冊の小説になる

紫原その後はどうされたんですか?

柳下ここで働いた後、1年ほど世界中を放浪しました。もともと日本語に興味があったので、海外に出て、日本語という言語を見つめ直してみたかったんです。その途中、出会った今の奥さんと結婚したので日本に戻ってきて、二人で住むために家を借りたんです。すると、その家に僕達より前に住んでいた人と、ひょんなことからご縁ができて。その人が勤めていた出版社で編集者が足りないというので、仕事してないなら編集者やれ、と言いうことで、出版で働くことになったんです。

紫原また、セレンディピティだ! そこでようやく校閲のお仕事に出会われて。

柳下ええ。面白さも感じましたし、校正・校閲を専門とする人が若い人にあまりいなかったこともあり、このままでは廃れてしまう、という危機感を抱きました。これは自分がやらなければということで、鴎来堂を立ち上げたんです。

紫原物語のような人生を送ってこられたんですね。

柳下そうですかね......。ただ僕に限らず、どんな人の人生にも物語はありますよ。『ストーナー』(作品社)という小説をご存知ですか?この小説は、ひとりのアメリカ人男性がただ生きて、死ぬ、雑に言うと本当にそれだけの話なんです。でも僕はこの本がとても好きなんです。『ストーナー』を読んでいると、誰しも小説になるような生き方ができると思えるから。そう思えることで、毎日がちょっとだけ豊かになるような、自分が特別になれるような気がしませんか?

紫原本当にそうですね。ただ、普通に生活していると、なかなか自分の物語の良さに気付けない問題もありますね。

柳下そういうときには、少し生活の中に一人遊びを取り入れてみるといいかもしれません。

紫原一人遊び、というと?

柳下僕がよくやるのは、ジャッキー・チェンごっこですね。

紫原......え?

柳下今、この場で僕がジャッキー・チェンなら、どんなアクションシーンを作るかを想像する遊びです。たとえば、向かい合う人、つまり紫原さん扮する敵を相手に、どんな大立ち回りを繰り広げるかと想像するんです。どちらかがあの窓を突き破って道路に飛び出すことになるだろうし、どちらかがあの棚をなぎ倒して逃げ回るかもしれません。

紫原それ、面白い遊びですね(笑)。

柳下「ゴルゴ13」ごっこもよくやりますね。レストランの席を選ぶとき、自分がゴルゴ13だったらどこに座るかと考えるんです。要は、問題を解く力でなく、問題を作る力の方を養えばいいんだと思います。

紫原なるほど。なんだか楽しく生きられそうな気がしてきました!

次回:"恋愛に必要なのは体力"!?日本語のプロ、柳下さんに聞く、現代の恋愛とコミュニケーションの極意!

MISFIT(ミスフィット)とは

ブランド名に隠された「社会不適合者(はみ出し者)」というユニークな意味。人とはちょっと違うあなたには航空機に使用する物と同グレードのアルミを使う等、デザインにこだわったMISFITはいかが?

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PHOTOGRAPHS by 谷口大輔

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